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和歌山家庭裁判所 昭和58年(家)990号 審判

申立人 田澤政江

相手方 平井武彦 外一名

主文

被相続人の財産(相続関始時における価額・一五八六万円)に対する申立人の寄与分を八二・三パーセントと定め、被相続人の遺産を次のとおり分割する。

一  別紙目録記載1の宅地、2の居宅及び3の乗用車並びに同2の居宅内にある家財道具類(家庭用財産)を申立人の取得とする。

二  申立人をして、相手方両名に対し七〇万五七八八円ずつの債務を負担させることとし、申立人は、各相手方に対し、該金員の支払をせよ。

理由

当裁判所は、本件記録中の各資料及び本件を巡る諸般の事情を総合して、次のとおり認定し、判断する。

一  相続人と法定相続分

被相続人は昭和五六年三月四日死亡し、同日その相続が開始した。

その相続人は、妻たる申立人並びに別れた先妻平川良子との間の長男たる相手方平川武彦及び長女たる相手方東美沙であり、各相続人の法定相続分は、申立人二分の一・相手方両名いずれも四分の一ずつである。

二  遺産の範囲及び評価額

相続開始当時被相続人が有していた積極財産としては、別紙目録記載1の宅地、2の居宅及び3の乗用車並びに同2の居宅内の家財道具類(家庭用財産)が存在し、現在も存在する。

被相続人は、昭和五二年三月ごろ、それまでの勤務である大阪市中学校教諭を退職し、その退職金として一六六一万九七七円を入手したが、これは、前記宅地・居宅の購入資金の一部、居宅の造作・設備費用、仏壇購入資金、生活費の補充、亡父龍一郎(昭和五三年一二月三一日死亡)の葬儀及び諸法事の費用並びに龍一郎の後妻キノの入院費(昭和五四年八月~一二月)として支出し、相続開始当時は既に全額費消していた。 ほかには、被相続人の積極財産は認められず、また、消極財産も認められない。

したがつて、遺産分割の対象となる被相続人の遺産は、別紙目録記載1の宅地、2の居宅及び3の乗用車並びに同2の居宅内の家財道具類ということになる。

そこで、これら各財産の現時点における評価額であるが、まず、宅地及び居宅の昭和五六年一〇月二七日現在の鑑定評価は、宅地七五〇万円・居宅六九〇万円であるところ、宅地については、その後の値上がりを勘案してその一、一二五八倍(公示価格の変動参照)の八四四万円(千円位以下四捨五入)を相当とし、居宅については、再調達原価の増大と経年減価の増大とが相均衡するものとして鑑定額どおり六九〇万円を相当とする。次に、乗用車については、同型式の昭和五八年一一月二日現在の査定額が一七万円~一七万五〇〇〇円であるところ、この乗用車には修理費用約八万円を要する接触痕があり、ほかにも要修理箇所があるので、一四万円を相当とする。また、居宅内の家財道具類については、購入代金合計三一二万円であるところ、購入してから既に七年を経過しているので、その一五パーセントの四七万円(千円位以下四捨五入)を相当とする。

そうすると、現時点における遺産の評価額は、宅地八四四万円、居宅六九〇万円、乗用車一四万円、家財道具類四七万円、以上合計一五九五万円となる。

三  申立人の寄与分

申立人は、被相続人と同じくもと中学校教諭であつたところ、昭和四二年三月退職し、その退職金を持参して、同年一一月二三日被相続人と婚姻したが、その後間もなく被相続人が病気体職したので、大阪府守口市の「○○○○」に就職して働き続け、その収入等によつて一五〇〇万円程度であれば住宅を購入し得る資金を作ることができた。そこで、被相続人と相談して、昭和五一年一〇月三一日被相続人名義をもつて本件遺産に属する前記宅地・居宅を代金合計一三八五万円で購入し、そのうち一二五五万円・九〇・六パーセント相当は、実に申立人が提供したものであつた。

かかる事情からすれば、共同相続人の一人である申立人については、相当の寄与分を認めてしかるべきところ、これを具体的に定めるには、被相続人が有していた前記財産の相続開始時における価額を算定する必要がある。まず宅地・居宅については、相続開始時と前記鑑定評価時との間に時間的隔たりがほとんどないので、鑑定額どおり宅地七五〇万円・居宅六九〇万円を相当とし、次に、乗用車については、販売店の評価証明どおり五二万円を相当とする。また、家財道具類については、購入してから四年を経過しているので、購入代金三一二万円の三〇パーセントの九四万円(千円位以下四捨五入)を相当とする。そうすると、相続開始時においては、これら財産の価額は、宅地七五〇万円、居宅六九〇万円、乗用車五二万円、家財道具類九四万円、以上合計一五八六万円となる。そして、申立人は、この宅地・居宅の合計額一四四〇万円につき前記九〇・六パーセントの割合で財産の形成と維持に寄与したものということができるから、その寄与分の額は一三〇五万円(千円位以下四捨五入)であり、上記財産の合計額一五八六万円に対し八二・三パーセントの割合となる。

申立人は、寄与分に関する申立書中において、被相続人の亡父龍一郎の後妻キノの入院に伴う昭和五六年七月以降の諸経費、小遣銭等及び被相続人の葬儀等の費用につき、被相続人の遺産からではなく申立人自身の資金からこれらの費用等を賄つてきたことをもつて寄与分に関する事情として主張しているが、いずれも相続開始後の事情であるから、寄与分としては考慮することはできない。ほかには、宅地・居宅の購入資金提供以外に申立人の寄与分として考慮すべき事情は認められない。

四  遺産の分割

上記のとおり申立人には八二・三パーセントの寄与分があるで、その具体的相続分は、該寄与分たる八二・三パーセント及び残りの一七・七パーセントに対する二分の一となり、相手方両名の具体的相続分は、残りの一七・七パーセントに対する四分の一ずつとなる。

ところで、本件遺産に属する居宅及び宅地は、被相続人と申立人の夫婦が昭和五二年三月以来居住してきた居宅とその敷地であり、被相続人死亡後も申立人が居住しており、しかも、その購入資金のほとんどは前記のとおり申立人が提供している。同じく本件遺産に属する乗用車及び居宅内の家財道具類は、被相続人が昭和五二年五月以降に購入し申立人とともに共用し、被相続人死亡後は申立人が使用しているものである。一方、相手方両名は、その母平川良子が昭和四〇年一二月二七日被相続人と離婚して以来、同女とともに被相続人とは別居し続けており、本件遺産たる上記各物件については全くかかわるところがない。

これらの事情にかんがみると、本件遺産たる上記各物件はすべて申立人に取得させるのが相当である。そして、そのことによつて申立人の具体的相続分を超える部分、すなわち相手方両名の具体的相続分に該当する部分については、その価額に相当する金員を申立人から相手方両名に対し代償金として支払わせるのが相当であり、申立人は該代償債務を負担すべきである。そこで、申立人の負担すべき代償債務の額を算定するに、前記二に掲げた本件遺産の現時点における価額一五九五万円の一七・七パーセントに対する四分の一ずつ、すなわち七〇万五七八八円ずつとなる。

五  結び

以上の次第であるから、申立人の寄与分を相続開始時における被相続人の財産、その価額一五八六万円に対する八二・三パーセントとし、遺産分割としては、本件遺産を全部申立人の取得とし、相手方両名に対し申立人に七〇万五七八八円ずつの債務を負担させてこれを支払わせることとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 賀集唱)

別紙〈省略〉

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